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運に対する独特の解釈

実力重視の背景にあるもの

人一倍努力したり、極限状態を経験することで運を大事にする感覚が身に付くということは分かったが、多くの人は、「そうは言っても実力で達成しなければ意味がない」と考えているかもしれない。一見この考えは正しいように思えるが、ここに大きな落とし穴がある。

運がいいことを否定し、実力がある人だけが成功するべきというのは、実は「使われる側」の人間の発想法であり、これはお金持ちになろうとする人にとって大敵なのである。

実力という言葉を私たちはあまり深く考えずに使っている。だが実力がある、ない、というのは評価の基準がすでに定まっているものでなければ判断することができない。実力という概念はすでに出来上がった古いものにしか適用することができないのである。

コンピュータがこの世の中に登場するまでは、プログラミングの実力というものがどのようなものなのか、ITの世界で実力がある人がどんな人なのか、誰も知らなかった。一方、銀行員の仕事ははるか以前から存在しており、どんな人が銀行員として実力があるのかすでに皆が知っている。営業など他の仕事も同様だ。

つまり「実力」という概念を持ち出している限り、それは既存のものしか対象にならないことを意味している。既存のものには、必ず先行者が存在している。既存のものに取り組むということは、先行している組織や人に「使われる」ということであり、そこからの稼ぎはたかが知れているのだ。

常識を越える利益を上げるためには、他人がまだ取り組んでいない「未知」のものに積極的にチャレンジし、自分が第一人者になる必要がある。そのような世界では「実力」がどのようなものなのか誰にも分からないし、そうであればこそ、成功した場合には大きな利益を得ることができる。そして、このような新しい分野で成功するためには、ある程度の「運」はどうしても必要なのだ。

筆者は実力で結果を勝ち取ることを決して否定しているわけではない。だが、実力で勝ち取ることが重要という言葉の中には、無意識的に、既存のルールに従って競争し、上の立場の人から評価してもらうという意味が含まれている。そこにこだわり過ぎていると新しい機会を見失ってしまう可能性があることを指摘したいのだ。

加谷 珪一 (かや けいいち)

経済評論家。東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事。その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う一方で、億単位の資産を運用する個人投資家の顔も持つ。著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)ほか多数。

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