
富裕層の課題解決をスペシャリティとし、関連書籍を複数発刊する弁護士の岩崎隼人氏が、エンリッチ読者に法律を解説する連載がスタート。本コラムのトピックスは「M&A」です。ーーー
M&Aは、オーナー経営者が築き上げた事業を次へとつなぐ、経営における重要な意思決定のひとつです。
しかし、M&A後になって買主とトラブルになってしまうケースは少なくありません。
M&Aの成功は、単に契約を締結することではなく、その後に生じ得るリスクに配慮し、備え、譲渡代金を取り返されることなく確保することにあります。
本稿では、実行「前」に把握しておくべきリスクとその対応策について、売主側の目線で前編・後編の2回にわけてポイントを解説します。今回はその前編です。
ご紹介するリスクは、株式譲渡契約書の中である程度コントロールすることが可能です。これからM&Aを検討されている方は、本稿をご覧の上、弁護士などの専門家と相談して、交渉や調整を進めることをおすすめします。
1 買主から減額交渉を受けた場合の対応
株式譲渡契約の締結後、実行を目前にして、買主から代金の減額を打診されるケースは少なくありません。納得のいく形でM&Aを完結させるためには、買主の要求がどのような根拠に基づいているのかを確認する必要があります。
たとえば、契約書において、価格調整条項(評価基準時からクロージング日まで、あるいは、クロージング日以降の事情を踏まえて譲渡価格を調整する条項)が設けられている場合があります。
このとき、対象会社の資産状況や業績の悪化といった事情を理由として、買主から譲渡代金の減額を求められることがあります。
減額を求められた場合には、買主の主張が契約書の条項と合致しているか、減額を求める根拠が客観的に見て妥当かを確認することが重要です。また、算出プロセスに買主側の主観や恣意的な操作が入っていないかを検証することも不当な減額を防ぐことにつながります。
また、価格調整条項の範囲外であっても、事前の調査(デューデリジェンス)で見落とされていた問題や、表明保証・誓約事項の違反が発覚し、そのことが実質的な減額交渉に発展する場合があります。
この際の対応のポイントは、買主の意向を冷静に分析することです。買主が契約を破棄したいのではなく、リスクを価格に反映させたうえで取引を進めたいと考えている場合、発生した問題が企業価値にどの程度影響を及ぼすのかを検討するべきです。そのうえで、実情に応じた減額幅を検討し、双方が合意できる現実的なラインを探る柔軟な姿勢・交渉が必要です。







