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ネットの誹謗中傷と成功者マインド

kaya2007

テレビ番組に出演していたプロレスラーの木村花さんが亡くなるという出来事をきっかけに、ネットの誹謗中傷対策を強化すべきとの声が高まっている。ネットの誹謗中傷は、誰もが被害者となり得るが、成功者は特にターゲットになりやすい。本コラムの読者には成功者も多いはずなので、何らかの被害に遭った人もいるかもしれない。

*この記事は2020年7月に掲載されたものです

誹謗中傷を行う人の心理には、経済的、社会的なコンプレックスが関係していると言われ、他人に対する過度な攻撃は、経済的、社会的欲求の裏返しであることも多い。人を妬んだり、成功者を攻撃したいという欲求は誰にでもあるものだが、現実社会で成功できる人は、こうした負の欲求を努力などプラスの力に転換できる。同じような深層心理を持っていても、犯罪に走ってしまう人と成功の原動力にできる人がくっきりと分かれてしまうのが現実だ。

理想とする社会的地位と現実のギャップ

ネット上で、しかも匿名でこうした行為を行っている人の多くは、自身の社会的、経済的な地位について理想と現実との間で大きなギャップを抱えているといわれる。「自分はもっと評価されるべき人間なのに」と思っていても、現実社会ではそれを実現できない。

本来であれば、自身の努力によってそのギャップを埋めるしかないのだが、そうした方向にパワーを振り向けることができず、成功者に対する妬みを募らせていく。匿名のネット空間であれば(実際には匿名ではないのだが)、すぐに自分が反撃される可能性はゼロに近いので、安全地帯から相手を攻撃できると思い込んでしまう。

ネット上では普段、到底言えないようなことを、しかも相手からの反撃を気にせずに言えるので、最初はかなりの万能感を得ることができたはずだ。だが、相手は成功者であり、自分のことは絶対に取り合ってくれない。いくら暴言を吐いても相手は無視し続けるので不満は募る一方となり、さらに攻撃度を増していくと考えられる。

ネット上で暴言を吐いたり、誹謗中傷を繰り返している人の身元が特定したものの、リアルな世界では大人しい人だったという話をよく耳にするが、それは当然のことである。人前で堂々と発言できるような人が、ネット上でコソコソと誹謗中傷などするわけがない。彼等にとってリアル社会での姿は不本意なものでしかない。

一部の人が、こうした過激な行為に走ってしまうのは、ある程度までなら仕方のないことかもしれないが、日本の場合、それだけは済まない部分がある。ここまでの行動には至っていないものの、間接的にこうした誹謗中傷を支持する人が少なからず存在しているからである。それは「有名税」などという奇妙な言葉が存在することからも推察できる。

日本では著名人や成功者が誹謗中傷を受けるのは、ある種の税金のようなものであり、誹謗中傷を受けても反撃すべきではないという意見が根強かった。こうした風潮が存在していたことから、被害を受けた人が、法的措置を行いにくく、これが犯罪行為を助長する面があったことは否定できない。

成功者に対して直接、誹謗中傷は行わないものの、誹謗中傷の被害は甘んじて受けるべきとの考え方を多くの人が持っていたというのは、非常に興味深い事実である。なぜならば、誹謗中傷を行う人はもちろんのこと、誹謗中傷に対して反論すべきではないと考えている人のほとんどは、自分が誹謗中傷を受ける成功者になるとは考えていないからだ。。

自分は成功者にはならない(あるいはなれない)と無意識的に感じているからこそ、成功者に対して妬みの感情を持っており、そうだからこそ、多少の誹謗中傷を受けてもよいと考えている。無意識的かもしれないが、日本では成功を自ら遠ざけている人が多いということになる。

加谷珪一

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