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裁量労働制が営業職にも拡大。問われるニッポンの働き方

エンリッチ メルマガ限定記事 05

働き方や残業代のあり方を変える労働基準法の改正案が4月3日、閣議決定された。労働基準法の改正については、高度人材に限り、残業代を支払わないというホワイトカラー・エグゼンプション制度が議論の中心だったが、今回の改正案では、突如、裁量労働制の範囲拡大が盛り込まれた。裁量労働制の拡大については、場合によってはかなり広範囲の職種がその対象となる可能性があり、労働市場に対する影響はより大きなものになるかもしれない。

ホワイトカラー・エグゼンプションは、金融商品の開発や市場分析、研究開発などの業務を担当する年収1075万円以上の高度人材が対象である。法改正をめぐっては、労働組合などが「残業代ゼロ」法案だとして激しく反発していたが、現実問題として1075万円以上の年収があり、成果と労働時間の相関がない仕事に従事している人は極めて少数派である。このため労働市場に与えるインパクトは小さいというのが大方の見方であった。

だが、今回の法改正で盛り込まれた裁量労働制の拡大は少し様子が異なっている。

裁量労働制は、みなし労働時間制度の一種。時間給という考え方をベースにしながら、あらかじめ労働時間を設定し、実際の労働時間にかかわらず賃金を支払うというシステムである。ホワイトカラーエグゼンプションと似ているが、本質的には全く異なる制度である。

ホワイトカラー・エグゼンプションは、成果と労働時間の関連性が低い職種について、労働基準法における労働時間や残業を適用しないという制度であり、実質的に時間給の概念がない。このため、仕事の成果によってのみ、労働者の給料が決まるということになる。一方、裁量労働制は、ベースが時間給であることから、理屈の上では、残業代や手当が付く。もっとも、労働時間はみなしで決められているため、深夜・休日以外は、実際に働いても働かなくても、もらえる残業代は同じという点で、従来の制度とは大きく異なっている。

裁量労働制がうまく機能すれば、労働者は時間に縛られず、自由に働くことができるようになるかもしれない。理屈の上では、早く仕事が終われば、早く帰ることも可能だ。ところが、長時間残業が常態化している職種にこれが適用されてしまうと、制度の導入によって残業代が大幅に減ってしまう人も出てくるに違いない。

結局のところ、この制度を生かすも殺すも、仕事の範囲や権限をどれだけ明確にできるのかというところにかかってくることになる。仕事の進め方が曖昧でムダの多い職場にこの制度を導入しても、状況は大きく変わらない。一部の経営者にとっては残業代が減ることは短期的なメリットとなるかもしれないが、結局のところ低い生産性を放置したままでは、最終的な収益拡大につながらないだろう。

これまで裁量労働制の対象とすることができるのは2つの職種であった。ひとつは「専門型」と呼ばれるもので、デザイナーや研究職などがこれに該当する。もうひとつは「企画型」で調査部門や企画部門などが対象となっている。

今回の改正案では、企画部門の対象について、提案営業などを行う職種にも拡大することが検討されている。具体的には、資金調達の支援業務やITシステムの提案営業、保険の提案営業などが想定されているようだ。

デザイナーや研究職は、個人で仕事が完結することも多く、裁量労働制もある程度は機能していると考えられる。だが、問題となるのは提案営業など、あらたに拡大される職種の方である。法人が対象の提案定業の仕事は、多くの場合、個人の範囲では業務が完結しない。他の部署や異なる職種の人とのやり取りが非常に重要な役割を果たす。この職種で裁量労働制をうまく機能させるためには、仕事の範囲や責任をあらかじめ明確にしておくことが何より重要となるはずだ。ある意味で、日本人の働き方がそのものが問われているといってもよいだろう。経営側にいる人も、労働側にいる人も、今回の法改正を期に、仕事の進め方について、もう一度問い直してみることをお勧めしたい。
 


加谷珪一(かやけいいち)
評論家
東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事、その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。
マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)など。2014年11月28日発売開始

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加谷珪一のブログ http://k-kaya.com

エンリッチ編集部

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