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The Style Concierge

見えない敵と戦う

起業家の多くは、スポーツ経験の有無を問わず「文化系」

この話は体育会系的な人と文化系な人との違いと言い換えることもできるだろう。

体育会系の人は、与えられたルールにしたがって、目の前の人と競争することを得意とする。一般的な企業社会では体育会系の人は非常に有利だと言われているが、こうした特徴と無関係ではない。

体育会系の人は、既存のルールの中で最大限努力することを得意としており、さらに、そうした努力を自己目的化できる。このため、トレーニングに邁進することができ、その結果として組織内では極めて大きな力を発揮する。

これに対して、いわゆる文化系の人は、いちいち理由を知りたがったり、批判的だったりするので使いにくい。とにかく理屈っぽいので、組織というカルチャーでは嫌われてしまうのだ。

だが、既存のルールを根本から変えるということになると話は変わってくる。とことんまで論理を追求する文化系の方がゲームチェンジには有利に働くことが多い。一般的な企業のトップとして成功する人には体育会系的な人が多いが、起業家で大成功するような人は多くが文化系だ。

これは、スポーツの経験がある、ない、という話をしているのではない。思考回路が体育会系なのか文化系なのかという話である。ソフトバンクの孫正義社長やZOZOTOWNを運営しているスタートトゥデイ社長の前澤友作氏、ホリエモンなどは、スポーツ経験の有無にかかわらず、典型的な文化系の思考回路といってよい。

一方、ローソンの元社長で、現在はサントリーのトップを務める新浪剛史氏などは、同じビジネス・エリートでも体育会形に分類される。

彼らはすべて成功者だが、孫氏、前澤氏、ホリエモンが稼ぎ出した金額は他の成功者とはケタが違う。この3人が事業を立ち上げ、そして成長させてきた過程においては、直接的なライバルは存在していなかった。

その事業が本当に成立するのか誰も分からないので、明確な競合は存在せず、常に見えない敵と戦うことが求められていたはずだ。だが、既存の事業には必ず競合が存在する。最初に考えるべきことは、競合とどう戦うのかであって、見えない敵と格闘することではない。同じ企業戦略といっても、既存の事業を拡大することと、ゲームチェンジではまったく違っている。

お金持ちになりたければ、最終的には見えない敵と戦うことが求められる。

だが見えない敵と戦うためには、相応の準備が必要であり、既存社会の競争に勝ち抜くこともそれなりに重要である。結局はバランスということなのだが、目の前の競争だけにとらわれていては大きな成果を得ることは難しいという現実は、常に頭に入れておく必要があるだろう。

加谷 珪一 (かや けいいち)

経済評論家。東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事。その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う一方で、億単位の資産を運用する個人投資家の顔も持つ。著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)ほか多数。

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