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企業や銀行に問われる「目利き力」

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「目利き力」

いま多く企業や金融機関が「目利き力」の向上を求められている。グローバル競争の進展で、企業の稼ぐ力が厳しく問われている中、ベンチャーなど将来躍進が期待される企業の力を十分伸ばすとともに、役割を終えた企業には市場から退場してもらい、日本経済の新陳代謝を加速させることが必須となっているためだ。

「目利き力」については企業のみならず、霞が関の中央官庁も大きく注目している。金融機関を所管する金融庁は、成長が見込まれる有望な企業に積極的な貸し出しを促すため、企業の将来性を見抜く「目利き力」を養成するよう、特に全国の地方金融機関に対して強く呼びかけている。

これまで銀行のビジネスは、土地などの担保を重視した融資が主流だったが、資金ニーズのある有望企業が将来見込まれる収益力の大きさに応じた融資を受けられるよう銀行側に「目利き力」をつけるべく金融庁が強く迫っているのだ。

一方、経済産業省は、過去の企業の失敗事例などから教訓を学び、現在活動している企業の参考にすることなども検討している。

こうした動きに敏感になって最先端の情報を収集しているのが、様々な企業情報を扱う信用調査会社である。毎日のように起きている様々な倒産事例が、「目利き」のヒントを示唆している。

たとえば、西日本で起きたある食品関係企業の事例では、企業側が決算を粉飾し、複数の帳簿を作って多くの銀行から融資を受けていた。しかし銀行側はそれに気付かず、他の銀行と横並びで融資を行っていた。

しかしある銀行の幹部だけは、ある店舗の開業祝いに見慣れない銀行から花輪が届けられていることに気付き、取引銀行に知らされていない別の融資が行われている可能性を察知。自行の融資を回収する手を打った。その後、その会社は破産に追い込まれたが、気付いた銀行だけは大きな損失を回避できた。企業経営の不審な動きを見抜くこうした力も目利き力の一つということができる。

ある機械メーカーは、地元の大企業を相手に業務を拡大していたが、世界的な金融危機の発生で、取引先の大手企業が生産調整や投資の抑制に乗りだした結果、受注が激減し、過去の設備投資による返済負担で資金繰りが急速に悪化した。

そうした中、大きな赤字が出ていたのにも関わらず、それを隠すために粉飾決算に手を染めてしまう。取引している銀行を複数のグループに分けて、それぞれに向けて記載内容が異なる決算書を作っていたのだ。それを見抜けず銀行はお金を貸してしまう。金融機関が企業の実態をしっかりと見抜けなかった事例である。

「パクリ屋」にもご用心

このほか経営者が詐欺目的の怪しい会社を見抜けずにだまされ、あっけなく倒産してしまうことも多い。こうしたケースの多くはいわゆる「パクリ屋」と呼ばれる悪徳会社がからんでいる倒産である。

「パクリ屋」は、業績が悪化して在庫をたくさん持ってしまった会社などをターゲットにして、そうした商品の高価買い取りをもちかけ、最初は一部を現金で支払って信用させる。しかしその後は支払いを行わず、商品をだまし取ってしまう手口だが、こうした「パクリ屋」にだまされてしまう企業は後を絶たない。被害を受けた企業の中には大手商社や電機メーカーなど有名企業も多く含まれているのだが、体面を気にしてなかなか被害が表沙汰にならないのも特徴の一つである。だが、悪質性の高い事案については警察が介入する刑事事件になっている場合もある。

さらに、危ない会社と取引する前に実態を見抜く力も重要となってくる。ある銀行の幹部は融資交渉をしようと訪問した会社の社長が、自社の決算書をわざわざ確認する姿を見て決算書の中身が怪しいことに気付き、その場で融資をキャンセルした例もある。さらに、中小企業の社長が自社の経営内容についてしっかりと説明できず、将来の夢ばかり話すのをみて、危うさを感じ取った金融関係者もいる。

ある信用調査会社によると、社長の部屋に政治家や芸能人と一緒に撮影した写真がやたらと貼ってあったり、美人の秘書や女性社員ばかりを自慢したりする会社の社長は要注意だそうだ。私用のゴルフセットが社長室の目立つ場所に置いてあったり、部屋に何組ものソファー不自然に並んでいたりするのも、「部屋の中で何をしているのか」という疑念とともに会社経営の信頼性に疑問が生まれることも多いという。

こうした企業や金融機関からの「目利き力向上」のニーズの高まりから、一部の信用調査会社は企業の要請を受けて、企業に合わせた特別な研修会やセミナーを開き始めた。ある地方銀行を相手に研修を行った担当者は、「とにかく何かヒントを得たいという意欲が強く、銀行側が積極的に参加している様子が伝わってくる。2015年度はそうした動きが一段と加速する1年になるだろう」と話している。


中河原 実(なかがわら・みのる)

エンリッチ編集部

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