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実行後に生じるリスクとその対応策 前編

M&A_実行後

M&Aは、オーナー経営者が築き上げた事業を次へとつなぐ、経営における重要な意思決定のひとつです。しかし、M&A実行後になって買主とトラブルになってしまうケースは少なくありません。M&Aの成功は、単に契約を締結することではなく、その後に生じ得るリスクを予め見越して、受領した譲渡代金を返還請求等から守り抜き、確実に確保することにあります。

*前回のコラム「実行に生じるリスクとその対応策」はこちら → TAP

本稿では、M&Aの実行後に把握しておくべきリスクとその対応策について、売主側の目線で前編・中編・後編の3回にわけてポイントを解説します。今回はその前編です。前編では、実行後の代金が支払われない場合や、受領代金が仮差押えにあってしまった場合等、受領代金が手元に入らない、残らない場合にとるべき対応について解説します。

1. 売却代金が実行後に支払われない場合の対応

株式譲渡契約を締結する際には、アーンアウト条項を定める場合があります。アーンアウト条項とは、株式譲渡契約において、譲渡実行時の支払い対価とは別に、譲渡後の事情に応じて買い手が売り手に対して追加の対価を支払うことを合意する条項です。

アーンアウト条項を設定した場合に、この条項に基づいて追加で対価を受けられるべき状況であるかが問題となることがあります。アーンアウト条項は、クロージング後1年から3年の期間が設定される場合が多く、基準としては売上高、営業利益、純利益、EBITDA等の財務的な指標が用いられることがあります。例えば、「売上高」という客観的な指標であれば、アーンアウト条項を充足しているか否かの判断は比較的容易であって、追加対価の支払いをすべきか否かで争いとなることは少ないと考えられます。しかし、そうではないもの、例えば「営業利益」や「純利益」などを指標にする場合には、会計上の処理や経営判断で大きく変動することから、数値が正当に算出されたものであるか否かについて、注意が必要です。財務会計上の数値を指標とする場合には、会計処理のルールをどのように選ぶかで数値が増減することから、会計基準や会計処理方法についてもあらかじめ確認しておくことが求められるでしょう。

また、アーンアウト条項は、将来の不確実な業績を対価に反映できる便利な仕組みではありますが、クロージング後の対象会社の状況次第で、基準を達成できるか否かが決まります。すなわち、クロージング後は買主が株主となるため、買主の対応次第で対象会社の業績が悪化し、そのせいで基準が達成できないという事態に陥ることも否定はできません。そのため、売主としては、株式譲渡契約書中に、アーンアウト期間中の買主の義務や違反時のペナルティを定めることによって、買主が不当に基準を達成しないような行動をとることを防止することができます。

具体的には、アーンアウト期間中に、対象会社の重要な資産や事業をグループ外や他のグループ会社へ無断で移転することを禁止する条項を設けたり、買主が事業を勝手に廃止するなどの重大な違反があった場合にはアーンアウトの目標値が最大で達成されたものとみなすとする「みなし達成条項」を設けることが考えられます。また、買主の違反行為があった場合に、一定の違約金を支払わせる規定を設けることもあります。

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岩崎隼人

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