問題意識を強く持ち、心からの想いを形にしたアートは人の心の扉を開く

E:ここまでお話を伺い、今回のプロジェクトは、アートにおける社会貢献性を体現した取り組みだと改めて思いました。
宮島:私自身は社会貢献をしようと思ってアート作品を創っているわけではなく、ただ問題意識として東北の復興に携わりたい、あの日の記憶を継承したいと思ってプロジェクトを立ち上げました。難しいところではありますが、作品の目的が社会貢献になった瞬間、一気に説明的なものになってしまい、パワーや面白さが消えてしまうので。
問題意識を強く持ち、人が集まる作品を創ることが結果的に社会貢献に繋がるのではないかなと思っています。
E:「時の海 – 東北」プロジェクト参加者の多くは、大切な人を失った痛みや辛い経験と向き合ってきた方々だと思います。実際に制作に携わった参加者からの反応はどのようなものでしたか?
宮島:一緒に避難していた家族や友人が目の前で津波に流されてしまった参加者も多く、なぜ自分だけ生き残ってしまったのか、生きていていいのかと苛み、記憶に蓋をするように口を閉ざす方もいらっしゃいました。しかし初めてワークショップに参加したことで、今まで話せなかった自分の気持ちを語ることができるようになるなど、「アートだから」と心を外に開くことができたとお話された方が多かった印象です。
E:アートが、自らの心を開くきっかけになったのかもしれませんね。
宮島:アート作品は、どういう風にその人が捉えるか、どんなことを考えて感じているのかによって見え方が変化します。自由な発想で向き合うことができますし、無意識に隠していた自分の想いを映す鏡のような存在なのではないかと思っています。
E:ちなみに、美術館の完成予定は2029年頃とのこと、建築の過程で苦労していることはありますか?
宮島:昨今の世界情勢もあり、当初の見積もりから建築費用が1.5倍ほど高騰し、資金の確保には苦戦しています。総額の費用は20億円なのですが、現在クラウドファンディングなどで集まった費用が5億円と、まだまだ先は長いです。

E:「時の海 – 東北」プロジェクトでは、サポート・アーティスト(資金支援者)を募集されているとか。
宮島:作品制作費や活動費は、私の個人資金と本プロジェクトに賛同して支援してくださった方々の寄付金により運営しています。「サポート・アーティスト」という名前の通り、支援してくださった方にはアーティストの一員であるというサイン入りの証明書をお渡ししています。
ぜひエンリッチ読者の皆さまにも参加していただけたら嬉しいです。

E:「時の海 – 東北」プロジェクトを通して、東北にどんな未来が訪れることを願っていますか?
宮島:美術館の開館をきっかけに、全国、全世界から作品を観に来る人が増え、富岡町がさらに活気づくことを願っています。
実際に建設予定地を見に行くバスツアーを数年前から実施していますが、「前から気にはなっていたけれど、東北に足を運ぶきっかけがなかった」「美術館建設をきっかけに、震災後初めて行ってみようと思った」という人がたくさんいらっしゃいます。このプロジェクトが東北に足を運ぶ転機になれば嬉しいなと思います。
時の海 東北 美術館
所在地:福島県双葉郡富岡町
土地面積:36,744㎡
設計:ATTA – Atelier Tsuyoshi Tane Architects
竣工:2029年(予定)
取材協力:「時の海 – 東北」プロジェクト実行委員会
TEXT:田宮有莉








