ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

はじめてのオーダー靴 
ギルド オブ クラフツ 山口千尋 


Q

「お客様はどういった方が多いのですか?」


A

「昔と今とで、ずいぶんと変わりました」


 
——こういった高級靴をお作りになる方とは、どんな方が多いのですか?

「昔は医者や弁護士の方などが多かったのですが、いまはさまざまな職業の方がいらっしゃいます。靴に対して真剣ならば、職業は問わずといった感じです。外国の方も多いですね。ギルドでは、香港、台湾、シンガポールの方が特に多い。アメリカの方もいらっしゃいます」
 


Q

「素材にはどういったものがありますか?」


A

「主たるタンナリーブランドは3つです」


 
——アッパーの素材には、どういったものがありますか?

「カーフに限って言うと、主たるブランドとしては、現在3つあります。フランスの“アノネイ”、“デュプイ”、そしてイタリアの“イルチア”です」

——それぞれの特徴は何ですか?

「仏アノネイは歴史のある会社で、供給量も安定していて、圧倒的な実績を持っています。フレンチカーフの代表格ですね。われわれの“クラシック”ラインに使う革は、アノネイが大半です。伊イルチアはイタリアらしく、ファッション性が高いのが特徴です。毎年新しいタイプの革を提案してきます。フロイデンベルグなど“ヘリテイジ”ラインにて、お選び頂けます。仏デュプイもフレンチカーフの名門ですが、現在やや希少な存在となっています。価格も高めです。“プレヴィレージ”ラインにて使っています」

ギルドの“クラシック”ラインに使われる、仏アノネイ社のカーフ。
伊イルチア社のカーフは、イタリアらしくファッション・トレンドを抑えている。
左:いまでは貴重品となってしまった仏デュプイ社のカーフ。右:スコットランド製のディアスキンは、普通のスエードに比べ、ソフトでもちもちとした質感。

——珍しい素材には、どんなものがありますか?

「クロコダイルはやはり貴重で、中でも班が15ミリくらいの真四角なものは最高級です。作る靴が一番キレイに見えるのです。100万円以上はしますね。オーストリッチ(ダチョウ)も高級で、60万円~です。リザード(トカゲ)は、小さいのでシームの少ない靴には使えません。価格はそんなに高くなく、上位カーフと同じくらいです。珍しいところだと、ウミガメがあり、これは希少で小さいものしか手に入らないので、ローファーもモカ部分(甲部分)などに使います」

——極めつけの貴重素材はありますか?

「クジラのペニスの革というのがあります。ペニスだけに引っぱり強度が強く、いくらでも伸びる(笑)。現在では新しく入手することは不可能ですが、まだ少しだけ在庫があるのです」

希少素材の数々。左2枚はアリゲーター、クロコダイルなど。右端の右下が珍しいウミガメ。中右が超珍品クジラのペニス。

Q

「日本のビスポーク・シューズ業界の現状は?」


A

「優秀な若手が多く出て来ており、世界的に注目されています」


——日本のビスポーク・シューズ業界の現状について教えて下さい。

「私がギルドを始めた頃は、私より年上の人で“ビスポーク靴職人”という存在はなかった。だからビスポーク靴職人になりたいと周囲に漏らした時は、『何を考えているんだ?』とよく言われました。しかし、20年ほど前にメンズ・イーエックスなどの雑誌で取り上げてもらってから、状況は急激に変わりました。いまでは本場英国やイタリアで修業して帰って来た若い人が、数多く活動しています」

——パイオニアとして、若手への評価はどうですか?

「レベルは高いですね。日本人は手先が器用で、靴作りが上手です。いま世界中で注目を集めているのも、納得できますね。特にアジアにおいては、ニッポン・ブランドは強くて、日本人はいいモノを作ると思われている。われわれの靴学校サルワカ・ウットウエア・カレッジの卒業生にも、世界で活躍している人がたくさんいます。いま18期生なので、毎年20名ほど世に送り出しているとして、もう300名以上もの卒業生を輩出したことになります」

——それはすごいですね。では日本のビスポーク靴業界はこれからも発展するでしょうか?

「間違いなく発展しますね。彼らは若いから、これからまだまだ伸びる可能性がある。テクニックはもちろん、ラスト製作に関しては経験や研究がモノを言うので、それらを積めば積むほどよくなっていくはずです」

——なるほど、パイオニアとして千尋さんの果たした役割は、本当に大きいですね。しかし一靴職人としては、まだまだ若手には負けてはいられないでしょう。これからも、頑張って下さい!


ギルド銀座店

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ギルドのすべての商品を購入できるギルド銀座店店内。豊富なシューズサンプルに加え、バッグや各種革小物なども充実している。ビスポークテーラー「i.d.e.m.」との共用店舗でもあり、洋服もオーダー可能だ。取材当日山口氏が来ていたのもイデム製のスーツである。

〒104-0061 東京都中央区銀座1丁目3−3 東亜ビル1階
営業時間:月、水~金 12:00~20:00
     土 11:00~19:00
     日、祝 11:00~18:00
     定休日 火(祝日も含む)
TEL:03-3563-1192
URL:www.guild.tokyo


※掲載価格はすべて税込み。

撮影=小澤達也

松尾 健太郎 (まつお けんたろう)

THE RAKE 日本版編集長、クリエイティブ・ディレクター
株式会社世界文化社にて、月刊誌メンズ・イーエックス創刊に携わり、クラシコ・イタリア、本格靴などのブームを牽引。‘05 年同誌編集長に就任し、のべ 4 年間同職を務めた後、時計ビギン、M.E.特別編集シリーズ、メルセデス マガジン編集長、新潮社 ENGINEクリエイティブ・ディレクターなどを歴任。現在、インターナショナル・ラグジュアリー誌“THE RAKE”日本版編集長。

連載コラム

松尾健太郎

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