日本のアートマーケットが突入する「次」なるフェーズへの向き合い方

E:現在のアートマーケットの動向は、久保田さんの目にはどのように映っていますか?
久保田:アート市場自体は2~3年前から減速していると言われているのですが、アートフェア東京2026は盛り上がりましたし、その数週間後に行われたアートバーゼル香港2026も活気があったなと感じています。
E:2~3年前から減速というのは……?
久保田:コロナの時期はアートにとってすごく良かったんです。旅行に行けない、出かけられないなら「住まい」や「暮らし」をアップデートさせようという風潮があったので。それが一旦落ち着いたことで日本のアートマーケットにも変化が生まれたと感じています。
日本には「サブカルチャーから入ってきた人たちがアートを買う」というアートマーケットのトレンドがあり、なかなか手に入らない稀少なスニーカーをコレクションするような感覚でアートを買っている層が一定いました。しかし、コロナ禍を経て、アートに対して動きがスローになってしまったということもあって、2~3年の間少し停滞気味になっていました。
数年前までは、国内のオークションでもとんでもない高額な落札が目立ったり、ビジネスマンの間でアート的思考が流行ったりしていたのですが、ちょっと違うフェーズに入ってきたのではないかな。でもそれが逆に良いのではないかと考えています。
E:マーケットのトレンドが変化したことで、アートに対してどのような向き合い方をする人が増えたと感じますか?
久保田:「みんなが買っているからアートに興味を持たなければいけない」とか、「アートマーケットに参入するぞ」というように、ある種トレンドに乗っかっていた人たちが別のことに興味を持ち始めたことで、アートと向き合う豊かさや本質を探究したいと思う層が増えたのではないかなと感じています。
E:日本の市場にこれから期待したいことを教えてください。
久保田:東アジアの美術の伝統を受け継ぎ、独自に変化・発展した日本の美術コンテンツは、歴史的にもとても成熟した文化を持っていると思います。しかし、アートを収集するという観点ではまだ発展途上です。
日本人はある意味でとてもまじめな勉強家なので、「ちゃんと分かっていないとだめだよね」という感じで自分とアートの間にわざわざ線を引いてしまいがちです。
アートの魅力は、YESやNOで分けることができないところだと思います。難しいものではないので、怖がらずに、印象派を楽しむのと同じように現代アートを楽しんでほしいなと思います。自分で新しい価値を発見する喜びがこれから育っていくことを願っています。

E:貨幣的な価値という概念に囚われず、「新しい価値」を追求することで、アート探しの旅がより充実したものになりそうです。
久保田:「美術館で鑑賞すること」と「オークション会場でアートを見る」という一見異なる体験を、あえてフラットに同じ見方をしてみるのも面白いと思います。美術館に行って、「これっていくらくらいするのかな?」という雑念をあえて入れてみたり、オークションの会場に行って、値札を見ず純粋にアートを楽しんでみたり……価値観の実験を自分なりにしてみるのも楽しいですよ。
ただ、少し練習してから行かないと分かりにくい部分なので、まずは作品を所有して、ひとつの境界を越えてアートとの付き合い方を変えてみることをおすすめします。
E:エンリッチの読者に向けて、アートを「楽しく買う」ためのアドバイスをお願いします。
久保田:私自身、29歳の時に初めて迎えたアートは「買う」という行為をやってみたいと思って購入したものでした。買う行為自体が目的だったのです。ですので、現在もその作品を良いなと思うかというと、難しいところです。
ですが、たとえ失敗したとしても、それを買ったという気持ちはずっと持ち続けることになるので、「買ったときはこういう心の状態だったな」と思い返すことが、ある種作品を買った価値なのではないかなと思います。
メルクマール的に買っていく……たとえば、ビジネスで目標を達成した、子どもが生まれた、などの記念に買うと、その時の気持ちをアートに変換して持ち続けることができるので、唯一無二の価値になると思います。
あとは、インターネットやAIの発達によって、体験するより先に情報が届いてしまう時代にはなりましたが、自ら身体を運んで見に行く「身体性」に立ち返ることで、よりアートの楽しさを知ることができるのではないでしょうか。
取材協力:MAHO KUBOTA GALLERY
撮影:平川友絵
TEXT:田宮有莉







