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セレブ御用達の愛育病院が芝浦に移転する理由

皇族が出産に利用するなど、セレブ出産病院として知られている愛育病院が、現在の所在地である東京都港区南麻布から、港区の芝浦に移転することが決まり、ちょっとした話題になった。

同病院がセレブ病院といわれているのは、その設立された経緯にある。愛育病院は、もともと現天皇陛下の出産を記念して、皇室から下賜された基金をもとに設立された。皇族の利用も多く、秋篠宮妃紀子さまが悠仁さまを出産したことでも知られている。

これに加え、同病院が、港区の南麻布という超高級住宅地のど真ん中、隣は有栖川宮記念公園という絶好の立地条件にあったこともブランド価値に大きく貢献したはずである。そう考えると、高台から低地への移転はブランド戦略上マイナスにも思えてくる。

しかし、現実には、芝浦への移転は同病院の経営戦略には大いにプラスに作用すると考えられる。その理由は、芝浦という場所には、同病院にとって理想的な顧客が数多く住んでいるからである。

芝浦地区は隣接する港南地区と並んで、ここ10年でタワーマンションの建設が一気に進んだエリアとして知られている。こうした新しいタワマンは戸数が多く、価格帯も様々となっている。高層階には億を超える高額物件がひしめいているが、低層階を中心とした安い価格帯の物件は、庶民でも頑張れば何とか手に入る金額のものも少なくない。

こうした物件には、セレブな生活に憧れる中間層が多数入居しているといわれ、高額なベビーカーやウォーターサーバーなどを販売する絶好のターゲットといわれている。

つまり、芝浦地区のタワーマンションには、セレブな生活に憧れ、これから子供を産むという世代の夫婦が、多数、移り住んできていることになる。これは、ブランド病院である愛育にとっては最高の顧客層ということになる。

かつての愛育病院を知る世代の人からは、新しい地区への移転については否定的な意見も聞かれる。しかし、世の中の高級の定義は常に変化しており、多くの中間層が高級と認識したものが、やがて本当に高級なものに変化していくこともある。

由緒ある場所に立てられた低層の住宅が高級の証だった時代は長かったが、その概念も永遠とは限らない。新しく開発された場所に立てられた高級タワーマンションが本当に由緒正しい住宅となる時代がやってくるかもしれないのだ。

加谷 珪一 (かや けいいち)

経済評論家。東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事。その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う一方で、億単位の資産を運用する個人投資家の顔も持つ。著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)ほか多数。

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