ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

ヤマトの取扱量抑制はネット通販に何をもたらすか?

量販店大手のヨドバシカメラは昨年9月から、ネットで注文した商品を最短2時間半で届ける「ヨドバシエクストリーム」というサービスをスタートさせたほか、ディスカウント・ストア大手のドン・キホーテも昨年末から同様のサービスを開始している(現時点では一部店舗のみ)。

通販事業者は、短期的には値上げを受け入れると考えられるが、中長期的にはこうした自前の配送サービスに切り替える動きが活発化になる可能性もある。というのも、近年、物流の世界には極めて大きなイノベーションの波が押し寄せており、通販事業者が自前でサービスを確立することは、決して夢物語ではなくなっているからだ。

現在、運送事業者の配達員は経験と勘に基づいて顧客に荷物を配送している。誰がいつ不在で、何時頃なら在宅なのか、どのルールを通ればもっとも時間が短くて済むのかといった情報はかなりの部分が配達員個人に帰属していた。ところが近年、AI(人工知能)が急速に発達してきたことでこうしたノウハウの汎用化が容易になった。AIに指示された通りに荷物を運べば、誰が担当しても効率よく配達を完了できるようになるのは時間の問題である。そうなってくると配達員はトレーニングを受けた能力の高い人である必要はなくなり、運送会社の経営も劇的に変化する。

さらに大きな影響を及ぼしそうなのがシェアリング・エコノミーを使った配送業務のオープン化である。米アマゾンはすでに具体的な検討に入っているともいわれるが、アプリなどで配送業務を実施してくれる個人を広く募り、その個人に配送を委託してしまうという手法だ。

従来型の配送インフラが確立していない中国では、配送要員を随時アプリで募集するシステムがすでにビジネスとして確立している。どのような人が荷物を持ってくるのか分からないという不安はあるが、サービスの内容次第では日本でも利用者に受け入れられる可能性は十分にある。

これらは一種の破壊的イノベーションであり、既存の業界秩序を一変させる可能性がある。ヤマトが取扱量の抑制や値上げといった交渉をしている間に、オープン化によって一気にシェアを奪われてしまう。そのような可能性も決してゼロではないのだ。

加谷 珪一 (かや けいいち)

経済評論家。東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事。その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う一方で、億単位の資産を運用する個人投資家の顔も持つ。著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)ほか多数。

連載コラム

▼加谷珪一 著
「共働き夫婦のためのお金持ちの教科書 30年後もお金に困らない!」
CCCメディアハウス 1,404円

マイホーム、貯蓄と投資、保険、子どもの教育費、親の介護と相続…大きく増やすために、大きく減らさないために、今できることとは?共働き夫婦なら絶対に知っておきたい57の基礎知識。

共働き

加谷珪一

Return Top