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公的年金で21兆円の損失というデマの顛末

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先月末、公的年金の運用に21兆5000億円の損失が出ているというデマがネットで拡散するという出来事があった。損失の最高額として政府が推定した数字を誤解したのが原因だったが、年金の運用で約8兆円の損失が出ているのは事実である。テレビや新聞が情報を独占していた時代とは異なり、ネットはたくさんの情報チャネルがある。情報の多様化が進む一方、こうしたデマも発生しやすくなる。

現在、公的年金は積立金を市場で運用しており、その残高は135兆円ほどになる。以前は積立金のほとんどが安全な国債で運用されていたが、安倍政権になり運用方針が抜本的に見直された。一昨年にまとめられた運用方針では、国債の比率が60%から35%に低下し、国内株の比率は逆に12%から25%に引き上げられた。外国株を合わせると全体の50%が株式というリスク資産中心のポートフォリオとなっている。現在、年金は徴収額より支払額の方が多く、積立金は年々減少している。このマイナスを補うためには、リスクの高い株式で運用する必要があるというのが、株式シフトの主な理由である。インフレが進むと債券価格が下落するため、債券中心のポートフォリオでは損失が発生するリスクが出てくることもあるだろう。

公的年金が株式の購入を始めると株価は急上昇し、その結果、年金運用の成績も向上した。2014年度(通年)は15兆2922億円のプラス、2015年4~6月期は2兆6489兆円のプラスとなった。つまり年金は自らの買いで株価を押し上げ、高い運用実績を上げたわけである。

しかし、リスクの高い株式に国民の最後の財産である年金をつぎ込むことには批判の声もあり、国会でも議論となった。昨年の1月に政府が年間で想定される損失の最高額として提示したのが、この21兆5000億円という数字である。あくまで損失の推定額であり、実際の損失額ではないが、これを一部の人が誤解し、ツイッターで拡散したことからデマが広がった。

加谷珪一

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