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日本の金融機関が深刻な運用難に直面している

直近では1カ月の調達コストが1.5%程度まで上昇しており、この水準は10年物の米国債の利回り(約1.6%)に匹敵する。つまり、日本勢にとって米国債で運用しようと思っても、もはや利益がでない水準まで調達コストが上がってしまったのである。そうなってくると、もはや米国債では運用することができなくなってくる。調達コストを上回る利益を得るには、リスクの高い商品(社債や株式)などにシフトする必要があるが、そこまでのリスク許容度がある資金ばかりではない。一部の機関投資家は米国への投資を諦め、欧州に資金を振り向けるか、日本国内に資金を戻しているようだ。

これは米国勢から見れば、円で投資をすることによって、黙っていても1.5%の利益が得られることを意味している。日本国債がマイナスの利回りになっているにも関わらず、海外投資家からの買いが続くことにはこうした背景がある。基軸通貨であるドルで運用ができる国と、もはやローカル通貨に成り下がってしまった日本円で運用するしかない国との差であり、現時点でこの差を埋めることはできない。唯一可能なことは、こうした事態を考慮に入れた上で、金融政策を決めることだけである。

では国内に戻ってきた資金はどうなるのだろうか。マイナス金利のままでは、日本に資金を戻したところで、運用先が見つかるわけではない。

これらの資金は、結局は内外のリスク資産に再度、振り向けられる可能性が高い。日本郵政グループのゆうちょ銀行は、最大6兆円を国内外の不動産や未公開企業などに投資するという。公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)7兆円を上限に同様の代替投資に乗り出す。

国内ではマイナス金利への警戒感から投資を手控える人が増えている。だが、投資を手仕舞って銀行に預けたお金や、年金保険料として支払ったお金は結局のところ、こうした形でリスク資産に再投資されている。個人としてリスク回避をしているつもりでも、お金を預けている金融機関ではまったく別の行動が取られているわけだ。

マイナス金利が続いている以上、現金を持っていることは実質的な損失につながってくる。ある程度のリスクを取った運用を続けなければ、資産が減っていくという現実はよく理解しておいた方がよい。

加谷 珪一 (かや けいいち)

経済評論家。東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事。その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う一方で、億単位の資産を運用する個人投資家の顔も持つ。著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)ほか多数。

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